優しい檻
それから、船越は大学を辞めた。
彼との接点が全く閉ざされてしまった。
雪依は一層音楽に飲めり込んだ。
彼との唯一の接点がピアノだったので、少しでも繋がっていたかった。
自分でも不思議だったが、彼がいなくてもちゃんと生活は出来た。
バイトも続けたが、2人とも雪依を見ると、すごく心配していた。
「先生、これ、あげる!」
「真理ちゃん、これ…?」
「クッキー、お母さんと作ったの!これ食べて元気になって!」
手作りのかわいらしいラッピングされた袋だった。
「ありがとう、嬉しい。」
じっと雪依を見ている。
「先生、今食べてよ!」
「―真理ちゃん、無理いわないの。先生困っているでしょ。」
真理の母親が注意した。
「―感想、聞きたかったんだもん…」
「分かったわ、じゃあ、一個だけ。」
袋を開け、一番小さいのを選び口に入れた。
「美味しい!真理ちゃん、料理上手だね。ありがとう。」
帰り道、すれ違い様に誰かに声をかけられた様だったが、雪依はそのまま真っ直ぐに走って家まで向かった。