優しい檻

「でも、何もないわよ、今。」
「あ、お米あるじゃん!おにぎり、作ってよ!」
「そんなんでいいの。」
「うん、僕おにぎり大好き!」
味噌汁とおにぎりを作って、俊一はいちいち喜び、美味しそうに食べていた。
「うん、おいしい~!
幸せだな~!」
(子供みたい…)
雪依は俊一の食べる姿をみていた。
「きっと俊君の家族は幸せなんだね。」
「え?何で?」
「そんな素直な性格だもん。きっと、愛されて育てられたんだなって、いつも思ってた。」
「そうかな、真理はワガママだし、母さんは口うるさいし、普通だよ」
「それがいいのよ。羨ましいわ。」
「雪依先生ん家は?」
「―…」
「すみません、余計なこと聞いちゃった。」

「うちはね、母が早くに病気で死んで、父親は再婚したの。そして新しい奥さんと私を置いて出ていったの。」

「―先生…」
「だから、俊君のお家はすごく幸せそうに見えてた。」
「―そっか…」
「そう。」

「はい、食べよ!一緒に!」俊一がいきなり雪依におにぎりを手渡した。
「え?」
「一人で食べててもつまんないし、はい!」
「―でも、食欲無いから。」
「一人で食べようとするからだよ!二人で食べると美味しいよ。」
「俊君…」
「ほら、はい!」
自分でも不思議と、自然に一くち口にしていた。
「―どう?」
「―…」
「先生?」
「美味しい…」
すると涙がみるみるうちに溢れてきた。
それと同時に空腹が襲ってきた。
「あ、それ僕の…」
「いいの、私が作ったんだから!」俊一は嬉しそうに笑った。


涙がどんどん出てきた。

もう認めなくてはいけない。

先生とは別れたのだ。


「―さよなら、先生…」




< 53 / 106 >

この作品をシェア

pagetop