優しい檻

「あ、雪依!行くんでしょう?これ!」
同じピアノ科の子が話しかけた。
「何?」
「船越先生のコンサートよ!大学辞められてから初めてよね、国内で演奏するの!」
「え?」
彼の写真が載ったパンフレットを持っていた。

―船越を見るのは1年振りだった。

「相変わらず素敵よね~。レッスンは怖いけど。
ギャップがまた良いのよね。ラフマニノフの協奏曲ですって!早く聴いて見たいわ~!もうチケット完売らしいわよ」


―相変わらず忙しいそうね、先生…


「どうしたの?」
「え?」
俊一が不思議そうな顔で雪依の顔を覗き込んでいた。
「弾かないの?ピアノ。」
「―あ、うん、さっきいっぱい練習しちゃって。」
「そっか」
「ごめん、俊」「いいよ、何で謝るの」
食器を片付けを手伝い、「僕、そろそろ帰るね。」「もう?」
「明日までの課題があって。あと学祭の展示品も作んなきゃ―しばらく会えないかも」
「―そう」
「ごめんね。電話する」
「うん」

見送りながら、雪依は考えていた。
(ピアノ弾いてたら、してくれたかな…)



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