優しい檻


玄関のチャイムが鳴った。
「俊」
「久しぶり!雪依!」
「きゃっ…」
俊一はドアを開けるなり、雪依を抱きしめた。

「会いたかった。」
「―うん…」

俊と会うのは2週間振りだった。
2週間会わないだけで、俊がすごく大人っぽくなった気がした。

「何か食べる?お腹すいたでしょ」
「うん…」

俊は雪依から離れず、
「ずっと雪依のこと考えてた」
と言い、ベッドに連れていった。


俊は大学生になってから垢抜けてすごく格好良くなった。
俊の携帯が鳴り、「ごめん、雪依。」と電話を取った。美大生なんて女ばっかりで、実は凄くモテているんじゃないかと不安になる。
「ああ、うん、全然平気。え?マジ?」
(男?女?)
「ごめん、せっかくのご飯、冷めちゃったね。」
と申し訳なさそうに言う。「学祭の展示で、実行委員になっちゃって。」と嬉しそうに言った。
「そう、大変そうね。」
―大丈夫。俊はそんな人じゃない。
「うん、実は今すっごく大変なんだ。間に合うか心配で」
「実はね、私も習い事始めるの。」
「へえ!何?」
「パソコン教室。」

「へえ!凄いね、何で?インターネットでも始めるの?」
「ううん、資格取ろうと思って」
「へ?何で」
「就職に便利だから」
「ピアノの先生そのまま続けたら?もっと生徒増やしてさ」
「だけど、それだけじゃ生活は出来ないの」
「プロになりなよ!雪依上手だもん、なれるよ!」「…そんなこと、」
「なれるよ!俺、ファン1号になる」
「無理だよ」「無理じゃないよ」

「無理なのよ!」

「雪依」「そんな簡単に言わないで!プロになるには留学と、コンクールに何度も優勝しなければならないの!留学なんてそんな費用ないし、コンクールだって、入賞レベルじゃ問題外なのよ!
それに早く働きたいの。父から早く離れたいの!」
「雪依…」俊は雪依の髪を撫でた。
今日も絵は描いてくれなかった。


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