優しい檻
第三楽章

再会


船越のコンサートは素晴らしかった。
満席の客が酔わせる演奏だった。

彼の演奏は芸術的にも素晴らしいのだが、客にいかに喜んでもらえるかを常に追求して、努力している。さらに彼にはカリスマ性があり、どんな客でも彼の音楽に引き込まれてしまう。

久しぶりに見る船越は少し痩せていて、どこか別人の様にも見えた。

「あの…これ、渡して下さい。」花束を受付に手渡そうとしたが、
「直接渡せますが、いかがいたしますか?」と聞かれ、ロビーを見ると行列が出来ていて、写真撮影やサインをしている船越がいた。

「いえ、結構です。渡していただければ」
そう言い、ホールを後にした。



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