優しい檻
「そこは、もっとゆっくり弾いて。」
「でも、私は違うと思うんです。」
「違うって、でも楽譜にもそう書いているし、そういう音楽なのよ。違う弾き方をしたら別の音楽になってしまうわ」
雪依の新しい女のピアノ教師は、とても細かく、楽譜に忠実に教える。
そういう音楽も大事だが、雪依には合わなかった。
昨日の船越の演奏を聴いて、自分の求めているのとは違うとはっきり分かった。
「先生、私…あの…日本音楽コンクールに出てみたいのですが」
「…本気なの?あのコンクールはかなり厳しいわよ?」
「はい、だから自分を試したいんです。」
「分かったわ。まあ、勉強にはなるから。でも大学の試験も疎かにはしないでちょうだい。」
「はい、頑張ります!」