優しい檻

雪依は船越の前に立ち、「今日は、お願いがあって来ました。」

「お願い?」

「はい。もう1度、私にピアノを教えて貰いたいんです」

船越は黙っていた。

「迷惑なのは分かっています。それでもやっぱり私、先生の音楽を学びたいんです!」

「―本気か」

「私、純粋に教師と生徒として、やり直したいんです」

長い時間彼は黙っていた。


やがて、「―やめた方が良い」
と言った。

「―どうしてですか?
ご家族に迷惑がかかるから?」


「もう俺たちは前の様には戻れないんだよ」

「そんな…そんなことありません」

「雪依、俺はお前を利用して捨てたんだ。
もう俺に関わるな」




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