優しい檻
「お前の愛なんてそんなもんだろ。
自分に都合の良い愛しか出来ない」
「何よそれ、どういうこと」
「いつもそうだろ、俺の時だって」
「…どういう意味?」
「一人が寂しいから離れたくないだけだろ。愛を信じることも出来ず、臆病で」
「やめて!」
「あなただってそうじゃない!自分に都合良い時だけ愛して、都合悪かったら捨てて」
「ま、そうだろうな」
周りが二人に注目しだした。船越はそれには全く気にすることなく言った。
「お前、あいつのこと本気なの?」
「―もちろん、だから苦しいんです」
「本気ならあいつの幸せを考えてやるんだな。それが愛だ。」
「まず、話合うことだな。それと、」
船越は、雪依の前に楽譜を置いた。
「自分を見失うな。
お前のこのコンクールに対する想いはこんなことで消えてしまう程度だったのかよ。がっかりだね。」と言い、船越は出て行った。
(―先生、ありがとうございます…)
楽譜にはしっかりチェックが書かれていた。
―今は、練習しなければならない。
俊のことを考えるひま等、今の自分にはないのだ。