優しい檻

「食えよ。」
船越が食べ物を買ってきて雪依の前に置いた。

野菜スープとサラダだった。
「しばらく食ってないだろ。それ以上痩せてどうするんだ。酷い顔だぞ。」

半ば強引に食べさせられた。
「美味しいです…」

「当たり前だ。」

前にこうやって俊とおにぎりを食べて慰めてくれたことがあった。

俊一との生活が失われた今、どう生きていけば良いかわからない。

「―先生…」

雪依は服を脱ぎ、下着姿になり、船越に抱きついた。


「誘ってんの?」

「…また、前の様にして。先生」


「やめろ。」
船越は雪依を離した。

「―どうして…?」

「また前の様に戻るのか?あいつを忘れる為に!
同じことの繰り返しだ。」

「いいの!繰り返しで!
だって、それでしか生きていけないんだもの!」
雪依は泣き叫んだ。



「―今のお前なんか、抱く価値なんか無い。」

雪依は泣き続け、
「―もう…一人は嫌なの…捨てられたくない…誰かに愛されたいの…」


船越はため息をついた。

「大丈夫だよ。お前は一人じゃない。」
船越は優しく雪依を抱いた。


「お前にはピアノがある。音楽はお前を捨てたりはしない。」

その言葉で雪依は一気に力が抜け、気を失った。


< 86 / 106 >

この作品をシェア

pagetop