優しい檻

「それで、あの、卒業前に行くことは無理ですか?」

「え?何でだよ」

「卒業まで待っていたら決心が鈍る気がして。早い方が嬉しいです。」

「分かった、だが俺がしばらく予定が埋まっているから…」

「いえ、先生はそのまま日本で演奏活動続けて下さい。」

船越は驚いた顔で雪依を見た。

「先生は今が一番大事な時でしょう。私なんかに付き合っていないで、演奏活動に励んで下さい。」

「―だってお前、1人でなんか…ヨーロッパだぜ?日本でだって1人で生きていけないのに」
留学を勧めた張本人が言う言葉ではない。

「私、自分を試したいんです。先生がいると、またきっと私先生に甘えてしまう。先生に言われて気付きました。音楽があれば、寂しくないって。
この留学が自立出来るいいきっかけになるんじゃないかって思ったんです。 」

「―…」

船越は一瞬少し寂しそうな顔をした様に見えたが、すぐに笑って雪依の頭を撫でた。

「お前がそう言う日が来るとはな。嬉しいよ。
よし、分かった。手続きしよう」

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