優しい檻
それからは慌ただしく過ぎていった。

大学側がなかなか許可が降りず、ずるずると延びて春になってしまった。

その間雪依はバイトとドイツ語の勉強をした。
船越は、留学の手続きを進めてくれていた。
不安はあったが、怖くはなかった。

そしていよいよ大学の許可が降りて、日程も決まり、出発の前日、船越との日本での最後のレッスンを受けた。

「先生、今まで本当にありがとうございました。1人で自立出来る様に祈ってて下さい。」

「頑張れよ。
向こうで変な男に引っ掛かるんじゃないぞ。
当分、恋愛はやめとけ」

「安心してください。
するつもり全くないですから。」
二人は笑った。
暫く船越は雪依を見つめていたが、
何故か雪依はその視線に堪えられず、視線を外した。



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