向日葵-the black cat-
気付けばただ、そんな彼女を引き寄せるようにして抱き締めていた。


ひどく懐かしい香りがして、前より少しだけ伸びた夏希の髪が、俺の首元辺りをくすぐるんだ。


もう、泣きそうになって、代わりに腕の力を強めてみれば、彼女は小さく肩を震わせていた。



「…会いたくて会いたくて堪んなくて…マジ死にそうだった…」


夢なら覚めないで欲しいし、二度と手放したくなんてない、と強く思った。


夏希は言葉の代わりに俺の服の裾をキュッと握り締め、胸の中へと顔をうずめてしまう。


そして、そっと俺の体へと腕を回した彼女は、ゆっくりと、震える声で言葉を紡いだ。



「…あたしまだ、強くなれてない…」


「俺も。」


「…会うとか思わなかったし、全然忘れられないしっ…」


「俺もだ。」


もう、そんなのどうだって良いんだ。


刹那、持ち上げられたのは驚いたような瞳で、その時にやっと目が合って、現実の証を求めるように俺は、キスを落とした。


あぁ、夏希なんだな、本物じゃん、って。


すっげぇ馬鹿みたいに噛み締めてしまい、再び落としたそれを、やっぱり彼女は抗うことなく受け入れてくれたんだ。


頬に触れた親指で彼女の涙を拭ってみれば、その瞳だけが揺れるようにして俺から外される。



「…あたし、アンタのことばっか考えててっ…」


そんな弱々しい台詞は辛うじて鼓膜を揺らし、一瞬、瞳を大きくしてしまった。



「それは、最高の告白だな。」


「……どうしてくれんのよ…」


「責任取ってやるよ、心配しなくても。」


つか、どうしてくれんだよ、ってのは、俺の台詞だ。


それでも口元を緩めずにはいられなくて、俺は誤魔化すようにまたひとつ、彼女へとキスを落とした。



「愛してる。」


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