向日葵-the black cat-
今日、病院に行く予定だったと言った彼女だけど、俺が寂しそうな顔でもしていたのだろうか、断りの電話を入れてくれた。


多分、香世サンが言ってたカウンセリングってヤツなんだろうとは思うけど。



「ねぇ、ずっと何やってたの?」


「何もしてない、かな。
ヨシくんちに居候してて、もう酒浸りっつーか?」


「…マジ?」


「マジだよ。
何か考え事っつーか、自分と向き合ってたかも。」


そう、苦笑いを浮かべる俺に、“何それ?”と、彼女は不思議そうに小首を傾げた。


それでもさすがにあの日々をこれ以上は語れなくて、誤魔化すように俺はまた、新しい煙草に火をつけた。



「親父ともさ、会ったんだ。」


「…え?」


「ほら、強くなるため?」


なんて、格好良く言ってみたけど。


でも実際は、そんな風では決してなかったっけな、と俺は、宙を仰ぐようにして白灰色を吐き出した。


夏希は益々意味が分かんない、とでも言いたげな顔で、“大丈夫だった?”と、遠慮がちに問うてくる。



「全然余裕っしょ。
それより、お前こそ何やってたんだよ?」


まるではぐらかすように話題を変えてみれば、彼女は思い起こすように俺の顔から視線を外した。



「派遣のバイト始めてさ、あと、香世ちゃんの病院にカウンセリングにも行ってる。
ひとり立ちするために、あたしもそれなりに頑張ってたよ。」


「へぇ、偉いじゃん。」


「そんなんじゃないよ。
クロに会いたくてさ、泣きそうになってた。」


視線を逸らし、漏らされた台詞は多分、本当のことだろう。


いたたまれなくなって“ごめんな”と呟き俺は、その髪の毛を掬い上げる。


夏希自身、強くなろうと必死だったことが伺い知られ、小さく胸が軋んでしまうんだ。


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