向日葵-the black cat-
「…後悔?」


「由美と結婚してれば良かったな、って。
紙切れ一枚の話なのに、俺は書類上、由美にとって何でもない人なんだ。」


「…婚約者、じゃないの?」


「そんなのは、口約束の世界だよ。
どんなにアイツを想って死んだとしても、俺は由美と同じ墓には入れないから。」


悲しい話だな、と思ってしまう。


死んだら無になるんだと言ったくせに、同じ墓に入りたいだなんて。



「ヨシくん、死にたいの?」


「いや、お前ら見ててさ、ちょっと昔を思い出して懐かしくなったんだ。
俺にもこんな頃があったな、って。」


「由美姉はきっと、ヨシくんの幸せを願ってるはずだよ。」


「難しいことを言う。
だったら由美が生き返ってくれよ、って言ってやりたいよ。」


「それこそ難しい話だよ、ヨシくん。」


「わかってるよ。」


ヨシくんはきっと、俺らが何を言おうと一生、由美姉を想って生きるんだと思う。


それでも少しだけ、肩をすくめたような顔が夏の陽に照らされて、明るくも見えたんだ。



「俺のこと、一生飼うつもりだと思ってた。」


「気が変わったんだよ。
お前みたいな手の掛かる猫は、新しい飼い主に任せるよ。」


「なぁ、ヨシくん。」


「ん?」


「俺の中では、夏希もヨシくんもどっちも大事だよ。
アンタは俺の、大事なパパだ。」


「へぇ、そりゃどうも。」


軽く返された台詞に、だけども俺は、思わず口元を緩めてしまった。


本当は嬉しいくせに、って思いながら、それでもはぐらかそうとするのがヨシくんらしいな、って。


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