向日葵-the black cat-
「それから、夏希チャンのことだけど。
それとなく智也に探り入れたけど、あの子もお前と同じように虐待されてたんだってな。」


「…や、うん…」


「お前が入れ込む理由もわからなくないけど、もう関わるな。
お前自身の傷が広がるだけだ。」


「―――ッ!」


「わかれよ、龍司。
俺だって、お前のことは可愛いんだ。」


多分、こんなことを言われたのは初めてだったろう。


同情めいた瞳だけど、それでも他人を拒絶するヨシくんらしからぬ言葉に、俺は戸惑うように視線を泳がせてしまう。



「お前は15の頃よりはずっと穏やかになったけど、それでも未だにただのガキだ。」


いつの間にか俺は、あの頃のヨシくんの年齢になっていた。


それでも全然同じだとは思えないし、ヨシくんが俺の人生を背負ってくれたようには、上手くいくはずがないって、そんなことを言われているようだ。



「なぁ、龍司。
お前のことは絶対に俺が守ってやるから、だから飼い猫で居れば良い。」


「…何だ、ただ寂しいんじゃん。」


「そうだよ。
それでもこれは、お前にも俺にもメリットがあるんだ。」


ヨシくんの愛情の掛け方は、多分どっか間違ってるんだろう。


それでも俺には普通なんてわかんないし、ヨシくんが悲しむようなことだけはしたくないと思ったんだ。



「じゃあ、ハッパ仕舞っとけよ。
あると吸いたくなるし、そんなアンタ見たら由美姉に俺が怒られる。」


「へぇ、言うね。」


「飼い主がラリったら、誰が俺に餌くれんだよ。」


そう言った俺にヨシくんは、一瞬瞳を大きくして、でもすぐに口元を緩め、“わかったよ”とだけ言った。


時が経てば、由美姉やサチのことのように、夏希のことも過去になってくれるんじゃないかって、そう思いたかったんだ。



『いつか、俺がもっと強くなれたら、ちゃんと迎えに行くから。』


ごめんね、俺、お前のこと迎えには行けない。


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