向日葵-the black cat-
智也と夏希が知り合いだったと知った、あの日。


初めて彼女は俺の車に乗ったんだけど、とても嬉しくなんてなれなかった。


引き寄せようと手を伸ばした瞬間、彼女は驚いたように肩を上げて、もしかしたら、って思った。


だってその反応、虐待されてたかレイプされたかのどっちかじゃん、って。


断言は出来ないけど、でも、彼女は確実に何か抱えてるだろうことは前からの会話で明らかだったし、もしそうなら、絶対放っとくことなんて出来なかったんだ。



『あたしは恋愛なんてしないから。』


それでも彼女は、俺のことを拒否したんだ。


いらない子って言われ慣れてるはずなのに、なのにまた捨てられたみたいで、何も言えなくなった。


当たり前だろう、だってサチだって結局俺に頼ることはなかったし、俺は最後まで何もしてやれなかったんだから。


だからまた、死にたくなった。


“じゃあな”って言ったのは、もしかしたら今生の別れのつもりだったのかなって、今では思うけど。


死ぬ勇気もないくせに何言ってんだろう、って笑っちゃうよな。







家に帰って浴びるほど酒飲んだのに、ぶっ倒れもしないんだから、ただのアル中だ。


そんな時に玄関のチャイムが鳴って、出る気はなかったんだけど、でも、ヨシくんだったらまた怒られそうだし、って。


ガチャリと扉を開けた瞬間、目の前には智也が立ってて、おまけにファイル片手で“酒臭いっすよ?”と眉を寄せている。



『…何事?』


『いや、これ明日必要じゃないっすか。
結局渡し忘れたままだったし、届けに来たんすよ。』


『へぇ、そう。』


じゃあ帰れって思ったんだけど、忠犬は何故か、勝手知ったるように俺の部屋に入って来て。


おまけに勝手に冷蔵庫漁ってビールまで出して、ここはお前の家かよ、って突っ込みたくなるくらい、犬は人のテリトリーに入りやがる。


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