向日葵-the black cat-
「智也と龍司は、まるで正反対だよね。」


「だから、何?」


「お前はさ、仕事与えたら誰より働くけど、でも、欲がないんだ。
考えたりしないってゆーか、まるで意志がない。」


「必要ないよ。」


「けど、智也は違う。
今はまだ荒削りなところはあるけど、それでもアイツには人の上に立つ器がある。」


「随分とお気に入りだね。」


「智也になら、将来的に俺の全部を託しても良いと思ってる。
アイツは、そんな男だ。」


煙草を咥えてみれば、虚しさは増すばかりだ。


欲も意志も、そんなの持つより先に諦めることを選ぶ俺と、決めたことは何が何でもやり通す智也との違いなんて、今更ヨシくんに語られるまでもない。



「それでも、俺だってヨシくんの弾除け程度にはなれるぜ?」


「縁起でもないこと言うなよ、龍司。
別にお前にそんなものを求めてるわけじゃないし、智也が居るからってお前の居場所がなくなるわけじゃないんだ。」


ヨシくんは多分、俺の恐怖心を知っている。


いらないと言われることが何より怖くて、気付けばいつも、誰かの中に自分の存在を求めたがっていることを。


火もついていない煙草を咥えたままにゴホゴホと咳き込めば、いよいよ死ねるのかな、なんてことが不意に頭をよぎって消えた。



「もう、あの子のことなんか考えるなよ。
女ならいくらでも用意してやるし、そいつを代わりにすれば良い。」


“いつもそうやってきたろ?”と、彼は幾分悲しげに眉を寄せた。


由美姉の代わりはサチで、サチの代わりは美弥子で、そんなのだらけだった俺のこと、ヨシくんが知ってるのは意外だったけど。



「じゃあ、ヨシくんにとって由美姉の代わりって、誰?」


「アイツの代わりなんか、誰もなれないよ。」


「なら、俺も夏希の代わりなんかいらない。」


意地とか、別にそんなのじゃないけど。


女を抱きたい気分になんてならないし、そしたら本当に夏希が俺の中から消えてしまいそうで、それも嫌だったんだ。


忘れたいけど、でも、忘れたくないなんて、やっぱ変なのかな。


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