向日葵-the black cat-
『この女は、俺が拾ったんだ。
だから、何しようと俺の勝手じゃね?』


『陽平、やめて!
あたしが悪かったから!!』


陽平ってヤツが夏希を殴ったあの瞬間、目の前で繰り広げられる光景を前に、俺はただ、殺してやりたいと思う衝動を抑えることに必死だった。


真っ黒い悪魔に侵食されてしまいそうで、そんなことが異常なまでに怖かったんだ。


たまに、頭の中に自分とは別のヤツが存在しているように思えて、そいつに乗っ取られそうな感覚に陥ることがある。


例えば子供の頃にしたってほとんどの記憶は曖昧で、その間に自分が何をしていたのかさえも思い出せないのだから、もしかしたらもうひとりの自分が支配していたのかも、なんて。


そんなことさえ思えてきて、やっぱりひどく胸やけを起こしそうだった。


由美姉は死んだし、サチだって別の男を選んだし、夏希まで俺じゃない男を庇ったことが、思いの他悲しかったのかもしれないけどれ。



『…だって、陽平がっ…』


『え?』


『陽平が戻って来てって言ってるんだもん!』


『…何、言ってんの…?』


あの時だってそうだ。


築こうとしている平穏は音もなく一瞬で壊れたかのように、彼女はまた、俺の手をすり抜けた。


まるで小さな幸せさえも許さないのだと、頭の中のもうひとりが嘲笑っているかのよう。


みんなみんな、俺の前から消えていくんだと思い知らされた気がした。


傍に居て欲しいと願えば願うほど、それが叶いもしない現実ばかりを見せつけられて、ただ自らを抱えるようにして崩れ落ちた、あの時。


死ぬことが出来たなら、どんなに楽だっただろう。


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