向日葵-the black cat-
「てゆーか、龍司。
確か、彼女出来たとかって噂聞いたけど?」


こちらに向けられた瞳の奥は好奇に満ちていて、俺は何も言わずに舌打ちを混じらせた。


混じらせれば、勘の良い美弥子はクスッと笑い、“振られたんだぁ?”なんてわざとらしく聞いて来るんだから、心底嫌になる。



「アンタってさ、幸せになれない男だよねぇ。」


「うるせぇよ。」


女ってヤツはこんな話が好きで、そして幸せらしい美弥子の、可哀想に、なんて瞳がウザい。



「あの子でしょ?
ほら、一緒に歩いてた女の子。」


「…何が?」


「龍司がこんなところで毛布にくるまってる理由。」


美弥子の何が嫌かって、とにかく何でもかんでもストレートに聞きたがるところだ。


おまけに、わざとだと言わんばかりに嘘臭くニッコリと頬笑み、一切の悪びれた様子は見せないのだから。



「頼むから、話し掛けんなよ。」


「あら、つれないわねぇ。」


やっぱりわざとらしく肩をすくめて見せ、“じゃあ、帰るわね”なんて言って彼女は、さっさときびすを返してしまう。


ヤろうと思う気力さえもなくて、もしかしたら今まで一番重症なのかなと、虚しさの中で宙を仰いだ。


夏希に会いたくて、抱き締めたくなって、そんなことばかり考えてる自分が居る。


このソファーの上から動けば、意志の弱い俺のことだからきっと、アイツのところに行ってしまうんだ。


傷つけるだけだって、わかってんのに。


だからこそ、俺の中に眠ってるヤツと一緒に、ここに居なきゃいけないんだ。


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