向日葵-the black cat-
『悪いけど、俺はもう、お前のこと助けるつもりはないから。』


傷つけることと、傷つくこと。


より自分自身が恐れているのは、どちらなのだろう。


何度も何度も俺の手の平をすり抜けていく夏希に対し、きっと自分自身を守ろうと必死だったんだ。


あの男の元に戻って、再び明らかに殴られたような傷を作っていた彼女の弱々しい瞳は、俺を揺さぶるばかりする。


それでも必死で終わったことなのだと、そう言い聞かせていたのは、彼女のためだったのか、自分自身のためだったのか。



『…泣くなよ…』


『違っ!』


『違わねぇだろ!
泣かれたって、俺はもう、何もしてやれねぇんだよ!』


俺は夏希のために、何が出来ただろう。


彼女を助けてやることで、結局は、昔の自分自身を助けているような自己陶酔に陥ってただけだったのかな。


だとするならば、やっぱり俺は、ただの最低なだけの男なのかもしれない。








「…龍司?」


弾かれたように顔を上げてみれば、いぶかしげに俺の顔を覗き込む瞳が落ちる。


それがヨシくんなのだと識別するまでに時間を要し、気付けば俺は、震える手で服越しの右腕に爪を立てていた。


冷汗が背筋を伝い、掘り起こしていた記憶の中の感情にさえ、飲みこまれてしまいそうになるのだから。



「病院、行くか?」


その問い掛けに、俺は懇願するように首を横に振った。


自分がおかしいのなんてとっくの昔に気付いてるのに、今更医者になんて言われたくないし、病気だなんて言われた日には、どうすりゃ良いって言うんだよ。


隔離されて、そのまま一生出られなくなって、なんてことを考える方が、余程の恐怖だったのだ。


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