向日葵-the black cat-
親父を刺した時の記憶もまぁ、あるにはあるかな。


15になった晩、その日もいつもと同じように腕を差し出すことを要求されて、ついに俺の中で何かがキレたんだと思うけど、気付けば流しにあった包丁を握っていた。


親父は途端に青い顔で制止の言葉を並べてて、それがまるで手の平返したようにも見えて、心底ムカついたんだ。


衝動的に刺してみれば、鶏肉に包丁を突き立てる感じってゆーか、そんな感覚が手に伝わって、そしてそこから徐々に血が溢れ出した。


俺の体中が返り血で真っ赤に染まって、もちろん親父は血まみれで痙攣するようにガクガク震えながら膝をついて。


その時やっと状況を理解して、とんでもないことをしたのかもしれないと思った。


別に親父が死ぬこととか、俺が少年院に入ることとか、そんなことが怖かったんじゃなくて、自分の中に眠ってた悪魔が目を覚ますってゆーか、そんな感じ。


で、そのまま俺は、きびすを返すように逃げ出したんだ。


後から聞いた話だけど、あの時包丁を抜いてたら、親父は出血多量で死んでたらしいから、どっちが良かったのかなんて、今はよく分かんないけど。


んで、そのまままた、衝動的に体中にこびり付いた血を洗い流したくて、近くの河原に入ったんだけど、当たり前に服についた血なんて落ちないしさ。


ならもう、そのまま死んでしまいたかった。







そこからの記憶はないけど、気付いたらこの街に居て、しかも見たこともない服着てて、どっかの路地裏っぽいところでやけに月が綺麗だな、なんて思ってて。


そしたら男と女が俺をジロジロと見てて、それがヨシくんと由美姉との出会いだったんだ。


チンピラ風の男と、お嬢様系の女の組み合わせで、絵に描いたように不釣り合いだと思ったことを覚えている。



『少年、どうしたの?』


『やめとけよ、由美。
ガキなんか放っとけって。』


『だって芳則、あたしこんな子放っとけないよ。』


殺して、と。


そう呟いていたと、後から聞いたんだけど。


お節介でちょっと抜けてる由美姉と、そんな由美姉に文句言いながらも一緒に居る、しっかり者のヨシくんに、何故だか俺は拾われたんだ。


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