向日葵-the black cat-
『じゃあ、一緒に乗り越えようね。』


旅行に行くはずだったあの日、夏希の親父が倒れたのだと連絡があった。


自分を虐待していた父親に会いに行くアイツは、きっと今の俺なんかよりずっと強かったろう。



『本気でさ、殺してやろうとか思ってたんだ。
正直今でもアンタのこと憎いけど、でも、生んでくれてありがと。』


そんな風に言えた夏希を思い出し、無意識のうちに彼女は今、どうしてるのだろう、なんてことを思ってしまう。


それでも目前に居る男に問わないことだけが、俺の小さなプライドなのかもしれないけれど。



「喪主は、夏希の母親だったみたいです。
一応まだ、戸籍上は夫婦ですしね。」


「…そう。」


そんな話、初めて聞いた。


お互いに愛人が居て、別々に暮らしてるとかってのは、チラッとだけ聞いた気がするけど。


それでも世の中、戸籍なんて面倒なものに縛られるのか、と。



「冷静でしたよ、夏希。
葬式は出なかったけど、昨日、俺と俺のかーちゃんと3人で、墓参りだけは行ってきました。」


そう、煙草を咥えた彼は、唇の端から煙を吐き出しながら言った。


もう、俺の支えなんかいらないって言われてるのと同じことで、わざわざこんなことを言いにきた智也に対し、ひどく虚無感に襲われてしまう。



「お前はもう、夏希とヤった?」


「ご想像にお任せしますよ。」


問うた俺の言葉に、彼は一瞬瞳を大きくしたけど、でも、すぐに笑みを浮かべてしまう。


人を小馬鹿にするような態度は相変わらずだし、余裕ぶったそれには拍車が掛かったようにも見受けられるのだから。



「引っ越し先、知りたいっすか?」


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