向日葵-the black cat-
眉を寄せ、ゆっくりと顔を上げてみれば、唇の端を上げた瞳が俺を捕らえている。


少し睨めば彼はまた、フッと笑って可笑しそうに口元を押さえた。



「まぁ、どうしてもって言って頼むなら、教えなくもないっすけど。」


土下座のひつでもしろ、って言いたいのだろうか。


まるで俺の反応で楽しんでいるとでも言いたげで、あからさまに舌打ちを混じらせた。



「そんな怒らないでくださいよ。
アイツは今、ひとり暮らししてるし、仕事も始めました。
それだけは、アンタにも教えといてあげますよ。」


「へぇ。
敵にそんな情報流して、随分とのん気だな。」


「敵?
笑わせんなよ、今のアンタが。」


そう、彼が視線を流した先には、テーブルの上に転がった無数の缶ビール。


もちろん全て俺が空けたもので、嘲笑うような瞳をただ睨み返した。



「お前は、俺をどうしたいの?」


「別に。
ただ、同じ女を好きだとどうしても、ねぇ?」


そんな含みを持つような言葉尻に、苛立つように俺は、煙草を灰皿へと押し当てた。


やっぱり向かい合う彼は隠すこともなく口元に笑みを浮かべたままで、クソガキのくせに、なんて思いながら宙を仰いだ。



「そんなに好きですか?」


「お前にゃ関係ねぇよ。」


「けど、教えてくれても良いでしょ?」


「何で?」


「聞きたいからです。」


そう、作った顔が向けられた時、俺は無視を決め込むようにして立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。


俺と夏希をくっつけようとしてみたり、わざと未練を断ち切るようなことを言ってみたりで、結局のところ、今も智也の本心なんて何らわからないままなのだから。


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