向日葵-the black cat-
「仕事、戻って来ましょうよ。」


「やだよ、ウゼェ。」


「アンタ居ないと、俺は過労死っすよ。
よく今まで、あの量をひとりでこなしてましたね。」


「尊敬しろ。」


「それは嫌ですけど。」


コイツは単に、こき使われてるだけだと思っているのだろうが、少し前、ヨシくんは智也になら将来的に、全てを任せても良い、などと言っていた。


多分、あの人の中で俺以外にお気に入りの操り人形が存在していることもまた、コイツを相容れない理由ではあるのだろう。


だって自分の存在が、薄らぐように感じるのだから。


ヨシくんの中でも、もちろん夏希の中でもこの男の存在が、俺より増すのが嫌なのだ。



「仕事に文句があるなら俺じゃなくてヨシくんに言えば良いし、辞めたきゃ辞めろよ。
お前があそこで働く目的は、もうないはずだ。」


「…まぁ、そうなんすけどね。」


元々智也は、夏希を探すためにヨシくんの下で働くことを決めたのだ。


それも達成された今となっては、ぶっちゃけ辞めて欲しいと思うし、そしたらコイツの顔なんて見なくても済むのだから。


コイツが居るから俺は夏希のことを思い出すのだろうし、少なからずその一因ではあるはずなのだ。



「アンタが羨ましいっすよ。」


「……あ?」


「いや、すんません。
俺、もう帰りますね。」


プシュッと開けたプルタブの音に掻き消されてしまいそうな声で、小さく漏らされた台詞に眉を寄せてみれば、彼は諦めたように立ち上がった。


羨ましいなんて、よくもまぁ、お前が俺に言えたモンだ。


引き留めることはせず、彼もまた“それじゃあ”なんて言葉を残すのみで、パタンと静かに閉まった扉の音が耳に響いた。


静寂の中は相変わらずの雨音だけが響いていて、消化の悪さを誤魔化すように新しいビールを流し込む。


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