向日葵-the black cat-
事情聴取とかの記憶もあんまりなくて、家庭裁判所とかの記憶も、もちろんあんまりない。


ただ、その頃にはすでにキャバクラを開いていたヨシくんは俺に弁護士をつけてくれ、その人の指示通りに言葉を並べると、俺は正当防衛が認められた。


罪を償わなきゃとか、そんな気持ちは薄くて、ただ、じっとしてたら俺の中に居るヤツも、大人しくしててくれる気がしたんだ。


喋らなくて、食べることも拒否していた俺を“気持ち悪い”とヨシくんは、そう言っていたのだけれど、でも、そんな俺を庇ったのは、由美姉と、そしてサチだった。


年が近かったからかサチは、由美姉と一緒になって俺の様子を頻繁に伺っていて、ちょっとだけ二人とは、言葉を交わすようになったっけ。


けど、どうにもヨシくんは苦手だった。


たまにひどく冷たい目をすることがあって、それが親父のようで、だから話すことなんてなかったし、目を合わせようともしなかったんだ。


毎日部屋を暗くして、与えられたものを食うだけの、動物以下の生活。








『おい、龍司。
お前毎日暇してんなら、ちょっとは俺の仕事手伝え。』


そんな言葉と共に、俺が散歩に連れ出されるようになったのは、あの事件から一年くらい経った頃だったと思うけど。


ヨシくんには弁護士つけてもらったり、衣食住を与えてもらったりと、義理だらけだったから逆らうようなことはしたくなかったし、

結構裏社会とかを教えられて、俺みたいなのなんていくらでも居るんだと知ったのも、そんな頃だった。


隠れてハッパ吸ってたのも、店の女の子に手出してたのも、多分ヨシくんは知ってたんだろうけど、でも、何も言われなかった。


シャブ運んだこともあるし、コンビニに停めてた鍵の付いたままの車盗んだり、実はそんなこともやらされてたけど、別に取り留めて何か考えたりはしなかった。


何か考えれば俺の中に住んでるヤツが起きちゃいそうだし、親父の顔がフラッシュバックすると、自分の抑えが効かなくるんだ。


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