向日葵-the black cat-
「お前はもしかしたら、俺を驚かせる天才なのかもしれない。」


言葉とは裏腹に、呆れたような顔だった。


結局俺は、あのまま床に倒れ込むように眠ってて、帰ってきたヨシくんに体を揺すられるようにして起こされたのだ。


日頃の生活が祟り、死んだんじゃないかと思った、ってさ。


珍しくジーマの小瓶片手に彼は、話を聞いてもいない俺に、あからさまにため息を混じらせた。



「猫ってさ、弱ってるところなんて見せないんだって。」


「…それで?」


「いまわの際になると、誰も知らないような場所に身を隠して、最期を迎えるらしい。」


だから、何が言いたいと言うのだろう。


随分と回りくどい言い方に思わず眉を寄せてみれば、手に持つ小瓶を傾けるようにラッパ飲みし、彼は言う。



「お前は独りで死ねるほど、格好良くはないだろうね。」


「…何それ。」


「言葉のままだよ。」


だからこそ、意味不明なんだけど。


寝起きのまとまらない思考の上に、相変わらずヨシくんの台詞は哲学めいていて、俺は困ったなぁと宙を仰いだ。



「なぁ、ヨシくん。」


「ん?」


「ハッパがどうしようもなく欲しくなったら、どうやって我慢してんの?」


そう問うてみた俺に、彼は一瞬瞳を大きくし、だけどもすぐに、呆れるような顔へと戻ってしまう。



「手遅れにならないうちに、病院行って安定剤でも貰ってこい。」


結局、投げられたのはいつもと同じような台詞だった。


雨の日は嫌に古傷が痛みを放ち、埋もれていた記憶までもが掘り起こされた気がして、どうすることも出来なくなる。


生きるのは、結構辛い。


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