向日葵-the black cat-
結局、引っ越し作業を終えたのは、7月を迎えるギリギリだった。


次に住むところなんて未だに決めてなくて、ほとんどの物は廃棄してしまい、大型の家具や何かだけは、とりあえず的にショットバーに放置って感じ。


色んな思い出ごと引き払った感じで、全てを終わらせてみれば、俺にはもう、何ひとつ残されてはいなかった。


つまりはこれで、心置きなく死ねるってことだろうけど。



「本格的に居候って感じだね。」


そう、ヨシくんは嫌味を混じらせて俺に言う。


まぁ、店長を引き受けることを約束する代わりに、全てを許してもらったって感じだからこそ、仕方がないと言えばそうなのかもしれないが。



「あの部屋に住み始めたの、いつぐらいからだったっけ?」


「18ぐらい?」


「何で今更、引っ越そうとか思ったの?」


「無駄に広いだけだって気付いたからだよ。」


「だから、夏希チャンともっと狭くて安い部屋に移りたかった、って?」


相変わらず、わかってて聞いてくる。


言葉は返さず代わりに肩をすくめると、俺は手持ち無沙汰のままに煙草を咥えた。


最近は引っ越し作業のこともあり、少しは外に出るようになったつもりだ。


いつの間にか梅雨なんて終わっていて、そのおかげもあるのだけれど、でも、コンビニに行って煙草や酒を買う程度。


とてもじゃないが、人間らしい生活とは程遠いものがある。



「…住むトコ、本気でどうするつもり?」


「わかんねぇよ。」


「考えてる?」


「いや、考えてない。」


相変わらず先のことなんて考えられないままだし、最近はめっきり、携帯を握り締めて眠るようになってしまった。


酒の量は少しは減ったと思うけど、でも、健全な精神状態かと問われれば、そうだとは言えないまま。


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