向日葵-the black cat-
街での喧嘩はしょっちゅうだったし、生傷が絶えなかったけど、それでも根性焼きの痛みに比べたら何ともなかった。


自分自身を持て余すってゆーか、そんな感じだったと思う。


由美姉が死んだのは、それからすぐのことだった。







ヨシくんの涙を見たのは、後にも先にも、それっきりだった。


泣きじゃくるサチの頭を撫でながら、必死で唇を噛み締めて、それでも堪え切れなかったものが溢れてくるような感じだと思うけど。


新聞にはよくある交通事故として、小さくまとめられていただけ。


だけども由美姉は、最期の最期まで必至で生きて、そして“ごめんね”って言いながら死んだんだ。


ヨシくんは彼女の亡骸に向かってプロポーズしてて、こんな俺でも見てられなかった。



『…龍司は…芳則のこと支えてあげて…』


それが、俺に託された由美姉からの、最期の言葉。


その時やっと、俺の中で人の死をリアルに感じられたんだと思うけど、だからって親父のことはまた別の話ってゆーか。


由美姉は、決して死んで良い人間なんかじゃなかったのにって、そう思った。



『ねぇ、龍司!
プランターのお花が咲いたの!』


『見てよ、良い天気だと思わない?』


『肉じゃが、ちょっと焦げちゃった。』


テヘッて感じのアニメのキャラってゆーか、それが一番分かりやすい表現だと思う。


きっと真っ黒い世界に身を置いていたヨシくんは、こんな由美姉だから好きになって、一緒に暮らしてたんだと思う。


由美姉の前で優しい顔してるヨシくんは嫌いじゃなかったし、そんな場所を見つけたあの人のことを、少しばかり羨ましいとも感じていたんだ。


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