向日葵-the black cat-
「ママも、若い頃に戻った気分♪」


「…良かったっすね。」


「つれないわねぇ。」


だって、智也の母親なんだから。


とは言えなくて、俺はあからさまにわざとらしい笑みを向けてやった。


取り留めて会話を見繕うことが出来ずに居る俺の前に、先に注文していた二人分のパスタが並べられた。


つか、ぶっちゃけ見てるだけで吐きそうなんだけど。



「食べないの?」


「…いや、さっき食ったっすから。」


「嘘ね。
顔見ればわかるわよ、看護師をナメないで。」


そう、少し眉を寄せたような顔を向けられ、俺は子供みたいに口を曲げた。


ここに来て20分は過ぎただろうか、俺の手元に置かれた灰皿はすでにピンカスだらけで、さすがに誤魔化せるわけもないんだろうけど。



「なっちゃん、カウンセリングに通い始めたのよ。」


「……え?」


「あなたは、どうなの?」


まるで、何もかも知っているとでも言いたげな瞳に、俺は戸惑うように視線を落とした。


前に進もうとする夏希に対し、俺は何をやっているんだ、なんて問うような台詞で、思わず唇を噛み締めてしまう。



「龍司さんが何を抱えてるか、私は知らないわ。
でも、あなたも重い荷物を背負ってるんでしょ?」


「…俺、は…」


途端に右腕の古傷ごと手が震え始めて、それを隠すように俺は、テーブルの下で拳を握り締めた。


席を立てばきっと逃げられるのだろうけど、でも、それじゃダメだと、その瞳は言う。


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