向日葵-the black cat-
「実はね、なっちゃんに頼まれてたの。」


「……え?」


「あなたのことも、息子にしてあげてよ、って。
自分と同じくらい弱いあなたのこと、助けてあげて欲しい、って。」


「…夏希、が?」


「そうよ。」


ただ、何が込み上げてるのかは分かんなかったけど、それでも息苦しさに襲われてしまう。


勝手なことすんなよ、お前の方が弱いくせに、お前に言われたくねぇんだよ、って。


俺のことなんか心配してんじゃねぇよ、ってさ。



「俺、昔、馬鹿なことやってたんす。
逃げてきたツケが回ってきたってゆーか、自業自得って言われました。」


「そう。」


「だから、会いたいけど会っちゃダメなんすよ。」


きっと、支離滅裂だったのだろう、俺の言葉。


だけども彼女は深く追求することなんてなくて、気を抜けば、ガキの頃のように泣き出してしまいそうだった。



「戦ってるのね。」


「戦士っすから。」


「あら、格好良い。」


いや、格好悪いんだって、本当は。


何で智也の母親に愚痴っちゃってんだろうなぁ、なんて思いながら俺は、諦めるようにため息を吐き出した。



「あなたを想ってくれてる人が居ること、忘れないであげてね?」


「―――ッ!」


「人間ね、自分のために、って案外難しの。
ほら、ダイエットだって人に見せることを思えばこそ、頑張れるでしょ?」


「…ダイエット、ねぇ。」


「心の、よ。」


本当に、敵わない人だ。


優しく口元を上げた彼女を見つめながら俺は、静かに煙草を消した。


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