向日葵-the black cat-
「病は気から、って言うでしょ?」


「…そう、っすけど…」


「じゃあ、約束。」


そう言って自らのアップルティーのグラスを持ち上げ、彼女は俺のウーロン茶の注がれたそれへと乾杯した。


飲みもんと食いもんの組み合わせ悪いし、有無を言わせないな、なんて苦笑いを浮かべながら俺は、カツンと綺麗な音を響かせ重なったグラスへと、視線を落とす。



「怖ぇよ、母上様は。」


「あら、失礼ね。」


「いや、マジ。」


「怒るわよ?」


「つか、もう怒ってんじゃん。」


結局、そんな他愛もない会話を繰り返しながら俺は、少しばかりパスタを食した。


酒でばかり満たしてきた体に久しぶりにマトモな固形物を入れた気がして、やっぱ気持ち悪くなったけど、でも、吐くことはなかった。


そういや、夏希と暮らしてたあの短い期間も、こんな感じだったっけなぁ、なんて。


珍しく掘り起こした記憶に愛しさを覚え、口元を緩めてしまった俺を、母上様はただ何も言わずに見つめていた。



「何かすげぇっすね、かーちゃんのパワーは。」


「元気になれた?」


「なれたよ。」


「良かったじゃない。」


「ありがとうございました。」


「いえいえ、お安いご用よ。」


キッチリとデザートまで食べた彼女は、ナプキンで口元を拭いながら優しく笑った。


迎えに行けるのかはわかんねぇけど、それでも少しだけ、顔を上げることが出来た気がしたんだ。


ホント、言葉じゃ上手く言えないんだけど。


< 67 / 113 >

この作品をシェア

pagetop