向日葵-the black cat-
『…何で死んだんだよ、ケイコ…』


酒飲んで、散々暴れて俺を殴り、幾分落ち着きを取り戻した親父はいつも、母さんの遺影の前でそんな風にかすれた声を漏らしていた。


今思えば、泣いてたのかもしれないけど。


そんな行動なんて全く以って俺には意味がわかんなくて、結局はいつも、親父は俺の後ろの母さんを見ているだけだったのだろう。


現実逃避したくて、どうにもならない苛立ちを俺にぶつけてたのかもしれない。


あぁ、やっぱ俺、親父と似てるんだ。







一夜明けてみたけど、やっぱり暑いとしか言えないくらい、雲のひとつも探せないほどに空は晴れ渡っていた。


少し前までは太陽なんてなくなったのかと思うほど、雨ばかりな毎日だったはずなのに。


自らが運転する車のオーディオからは洋楽のヒップホップが流れてて、一体何を言ってんのか分かんなかったけど、でも、その方が良いと思った。


悲しい歌も、色恋の歌詞も、今だけは、聴きたくなんてなかったから。


サングラス越しに映る景色はただ真っ直ぐにアスファルトが続いてて、さすがは高速道路って感じ。


標識はS町に入ったことを示してくれて、俺はオーディオのボリュームを一層上げた。


どうしたいのか、どうなりたいのかは未だに分かんない。


この町に親父が居るんだろうけど、でも、来たからと言って会うつもりかと問われれば、そうとも言い切れなかった。


ただ、あの人が今、どんな町で暮らしてるか、それが知りたかっただけなんだ。


なんて、言い訳臭いかな。


俺が生まれ育った街とは違う、山ばかりのド田舎。


何で入院してんのかなんて知らないけど、まぁ、病気の療養には良い環境だろうな、なんて思いながら俺は、煙草の一本を咥えた。


夏希ならきっと、同じ田舎でも海が見えなきゃ怒るんだろうけど。


そう、ふと助手席を一瞥してみたけど、当たり前に誰も居らず、結局は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


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