向日葵-the black cat-
「…すまなかった。」


まるで風に消えてしまいそうなほどのか細い声で、そんな一言が漏らされた。


ただ耳を疑って、恐る恐る顔を向けてみれば、親父は泣き出してしまいそうな色を浮かべた瞳を僅かに揺らしている。



「…立派な青年になってくれて、良かったよ…」


そんな震える声色に、俺はどうすることも出来ずに視線を外し、顔を覆うことしか出来ないまま。


アンタが言うなよとか、文句のひとつでも言わせろよとか、そんなことばかりが頭の中に浮かび、悔しくなる。


それでも言葉を発すれば俺の方が泣いてしまいそうで、沈黙の中で遠く人の声が聞こえた気がした。



「どうかしてたんだ、あの頃は。
お前には、拭いきれない傷を負わせてしまった。」


「…っざけんなよ…」


「後悔、してるんだ、父さんは。
謝っても許されることじゃないだろうけど、お前のことは忘れたことなんてない。」


本当に、ふざけんなよ、って思った。


何でアンタばっか喋ってんだよ、勝手に謝ってんじゃねぇよ、って。



「…アンタの所為で…俺はっ…」


「わかってる。」


「何がわかんだよ?!
俺の痛みも辛さも、アンタにわかるはずねぇだろ?!」


「…すまない。」


声を荒げてしまった自分が、ひどく滑稽に思えた。


まるでガキみたいにわめき散らして、肩で息をしながら俺はまた、昔より一回り小さくなった親父から視線を外した。



「父さんは、どうすれば良い?」


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