向日葵-the black cat-
「……え?」


「父さんが死んでお前が満足するなら、それでも良いんだ。
お前が望むことをしてくれ。」


この人は、一体誰なのだろう。


同じ姿形をしていても、あの頃のような鬼の形相では決してなく、まるで俺の方が年寄りを苛めてるみたいだ。



「お前が父さんを刺したのは、当然のことだ。
それでもただ、謝りたくて生き永らえてきたんだから。
一目、会いたかった。」


「…何、言って…」


「龍司が、母さんの残した宝だなんて、気付かなかったんだ。」


ただ、再び顔を覆うことしか出来なくなった。


罵ってやれば良いはずなのに、言葉なんてちっとも出てこないし、唇を噛み締め、苛立ち紛れに俺は、煙草を投げ捨てた。



「一生、憎んでくれて構わない。」


そう思うなら、昔みたいな顔してろよ、って。


そんな弱々しいばかりの瞳で、俺にすがるような顔してんなよ、って。


まるで凝り固まっていたものが溶け出してしまいそうで、ゆっくりと、俺は震える吐息を吐き出した。



「…もう、良いよ。」


一体何が、もう良いのだろう。


自分でも分かんないのに、気付かぬうちにそんな言葉が口をついてしまい、諦めるように新しい煙草を箱から摘み上げた。


火を付け、そしてライターを彼へと差し出すと、驚いたような顔と共にそれは恐る恐る受け取られた。


端と端、指先さえ触れることなく、100円ライターは親父へと渡ったのだ。



「アンタ、もう死ぬの?」


「わからんが、肝臓をやられてな。」


「へぇ。」


本当に、他人と話すような口ぶりだった。


どこかよそよそしい感じだけど、多分これが俺達の精一杯の会話なのだろう。


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