向日葵-the black cat-
「…結婚、してるのか?」


「してねぇよ。」


「…そう、か。」


互いに、探るようにしか話せないまま。


結局俺は諦めるように長くため息を混じらせ、白灰色を風に漂わせた。


夏の昼下がりの木陰で、こんなオッサンと何しみったれた話してんだろう、なんて、思わず抜けるような青空を仰いでしまう。



「好きな女、居るんだけどさ。
ダメになったけど、アンタと同じで俺、未練がましいんだよ。」


「……そう、なのか…」


「ヨシくん、つか育ての親?
だから迷惑掛けてんだよ、今も昔も。」


育ての親、なんてワードを気にしたのか、そう言った俺に親父は、口をつぐんでしまう。


額には少しばかり汗が滲み始め、互いに別方向を向いたままの会話は、やはり親子のそれとはまだほど遠いのだろう。



「…幸せに、暮らしてるのか?」


「微妙だよ。
けど、昔より色んなヤツに囲まれてるし、こんな俺でも心配してくれる人が出来たんだ。」


「…そうか。」


チラリとだけ伺った親父の顔は、どこか安堵しているようにも見受けられた。


ただ俺の言葉に相槌を打ってるだけだけど、深く聞く権利はないとでも言いたげだった。



「…奥さん、居るの?」


「いや、居ないよ。
父さんは、やっぱり母さんじゃなきゃダメだからな。」


そんな、聞いてて恥ずかしくなるような台詞に、俺は思わず肩をすくめてしまう。


だって少なくとも、俺は愛し合ったふたりの間に生まれてきたってことなのだから。


空を仰いでみれば、不意に夏希の顔が浮かんで消え、やっぱりどうしたものかと思ってしまう。


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