向日葵-the black cat-
少しばかり夕焼け色に染まった土手の向日葵たちは、俺の背丈をゆうに超える高さで空を仰いでいた。


背筋を伸ばすように真っ直ぐに茎が伸び、鮮やかな黄色に俺は、思わず目を細めてしまう。


本当に綺麗で、そんなものを見つめ続けていれば、何故か涙が込み上げて来て、結局は顔を覆うようにして唇を噛み締めることしか出来なくなった。



「…夏希…」


だってさ、こいつら顔を上げて生きてんじゃん。


俺と夏希が目指す強さがそこにある気がして、いたたまれない気持ちになってしまったんだ。


親父と会ったんだ、って言ったら、お前は何て言うかな?


わかんねぇけど、頑張ったね、なんて言って笑って欲しいんだ。


俺さ、嫌になるくらいにお前のことばっか考えてんの。



『せわしない日常とか、嫌になったりしない?』


誰にも邪魔されないふたりっきりなら、例えこんなド田舎だったとしても良いよ。


俺が居て、お前が居て。


何にもなくても良いから、平凡でも静かに、そして穏やかに暮らしたいんだ。


もう、それ以上は何も望んだりしねぇから。





なぁ、夏希…


お前と一緒にこの風景、見たかったな。


また会えたとして、ありえねぇけど俺らの間に子供が出来たとしたらさ、この向日葵みたく育って欲しいって思うんだ。


夢の中でしか会えないお前を、やっぱりもう一度、抱き締めたいと思ってしまう。


なぁ、我が儘言ってるって、怒ってくれよ。


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