向日葵-the black cat-
「意外だね、花屋なんて。」


「意外なのはどっちよ。
突然来たりなんかして、ひとりなの?」


「まぁね。」


諦めたようにため息混じりに紡がれた台詞を適当に受け流し、俺はぐるりと店内を一周して歩いた。


まぁ、サチの花好きは由美姉の影響だとは思うけど、それにしても花屋をなりわいとするなんて、思いもしなかった。


つか、それを知ったのは、昨晩のことだけど。



「お兄ちゃんからこの場所聞いたの?」


「いや、正確には盗み見た?
ほら、ヨシくんって地味にアナログなとこあるから、大事なことってメモってんじゃん?
だから、こっそり手帳を拝見させて頂きました。」


「…怒られるわよ?」


「だろうね。
だから、ここに来たこと内緒にしといてよ。」


「呆れた。」


笑って言った俺に、そう彼女は、肩をすくめて見せた。


公園でのあの日、結局はゆっくり話せないまま別れてしまったし、それ以前に俺らは、マトモな別れ話すらしないままに関係が終わったのだ。


だからこそ、こんな風に話をするなんて、5年以上ぶりになるだろうか。



「彼女は?
仲良くやってる?」


「内緒ー。」


「あらそう。」


わざとおどけて言ってみたけど、そんなことも少しばかり悲しかった。


ショーケースには先ほど見たものより少し小ぶりな向日葵も並べられていて、どうしても、そちらに目が行ってしまうのだから。



「花束、この向日葵も入れてね。」


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