向日葵-the black cat-
「それより、海斗は?」


「保育園よ。
遅くまでみてくれるところなの。」


「そっか。」


海斗の父親、つまりはサチの浮気相手に妻子がいたことは、あとから聞いた話だった。


それでも彼女は子供を産み、そしてひとりでも育てることを決めたのだから、強いっつーか何つーか。



「ひとりでさ、平気なの?」


「…心配してくれるの?」


「まぁ、それなりにね。」


「なら、ご心配には及ばないわ。
これでも結構、子供とふたりで楽しくやってるもの。」


香世サンにしてもそうだけど、母親ってのは、みんなこんなにも強いのだろうか。


それとも子供を産んだら、無条件に強くなれたりするのなのだろうか。



「なぁ、俺の子だったとしても、産んでた?」


そう聞いてみれば、彼女は一瞬瞳を大きくして、でもすぐに、それは笑みへと変わってしまう。



「モチロンよ。」


「…そう。」


「正直ね、龍司の子供だったら良かったと思ったこともあった。
裏切ったのはあたしの方なのにね。」


少し悲しげな瞳がゆっくりとこちらに向けられて、どうしたものかと思ってしまう。


それでも、モチロンよ、なんて台詞に、少しばかり救われた気もしたんだ。



「良いじゃん、もう。
終わったことだし、今は幸せなんだろ?」


問うた俺に、彼女はコクリとだけ頷いた。


あの時の悲しみとかを乗り越えて今があるのだとするならば、決して悪かっただけの出来事ではないのだろう。


今を乗り越えたら、どんな形になるかは分かんないけど、それでも夏希と笑い合える日が来るのかな、なんてことすら思ってしまう。


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