向日葵-the black cat-
「海斗の父親になれなくて、ごめんな。」


「知ってる?
今じゃお兄ちゃんが父親みたいなのよ?」


「…ヨシくんが?」


「そうよ、突然プレゼント持って現れてみたり。
きっとね、由美ちゃんと出来なかったことをしてるつもりなのよ。」


まったく、ヨシくんらしいな、と思ってしまう。


俺には居場所すら教えなかったくせに、ちゃっかり自分はままごとしてんじゃん、って。



「お店も順調だし、保育園でそれなりにママ友ってやつも出来たし?
だから龍司が心配しなくても、あたしは元気よ。」


「そっか。」


「アンタもそろそろさ、自分のこと大事にしなよ。」


少しだけ緩めた口元のままに、サチは俺にそう言った。


視線を落とすことしか出来なくて、視界の端にはショーケースの中で笑顔を零しているような向日葵が映る。



「あの頃、正直言うとたまに龍司のこと怖かったの。
時々何考えてるかわかんないような虚ろな目して、瞳には何も映し出してないってゆーか?」


「―――ッ!」


「でもさ、今は違うじゃない?
だから、彼女と何があったのかは知らないけど、ふたりで幸せになって欲しいと思ってるの。」


他人の、つか別れた男の幸せを願えるなんて、サチはやっぱ心が広いっつーか。


それでも寂しく思ったりしないのは、俺の中に彼女のスペースなんてもう、どこにもないからだろう。



「夏希のことばっか考えてるって言ったら、サチは笑う?」


「笑わないわよ、ごちそうさま。」


そして“良いことじゃない”と、彼女は言った。


結局俺はそのまま何も言えなくなって、苦笑いを浮かべることしか出来なくなったわけだけど。


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