向日葵-the black cat-
「ただいま。」


そう言って玄関の扉を開け、勝手知ったるように部屋へと入ってみれば、明らかに怒ったような顔がこちらに向けられていた。


俺は鼻歌なんかを混じらせるフリして軽く無視を決め込み、そのまま真っ直ぐに冷蔵庫へと向かう。


牛乳を取り出して、グラス立てに置かれたコップを手に、それへと乳白色をひたひたと注ぐと、“龍司”と、彼はいつもより少しばかり低い声で俺の名前を呼んだ。



「どこに行ってたの?」


「心配症だね、パパは。」


「死んだのかと思った。」


「ははっ、勘弁してよ。
つか、俺にひとりで死ぬ勇気はないとか言ってたのは、誰だっけ?」


そう、おどけたように笑いながら俺は、冷えたグラスの牛乳を流し込んだ。


ぶっちゃけ、この味は未だに慣れないけど、でも、こう毎日飲み続けてればさすがに習慣づいてしまうんだ。



「ごめんな、ヨシくん。」


「…何が?」


「親父とサチに会ってきたんだ。」


「…嘘だろ?」


「本当だよ。
もう、大丈夫だからさ。」


彼の顔は、やっぱり困惑しているようだと思った。


それでも安心させるように笑ってやれば、ヨシくんは諦めたようにため息を混じらせながら、宙を仰ぐ。



「良い一日だったよ。」


「……そう。」


自分自身、言葉で説明しろと言われれば、まだ難しいところはあった。


それでも短くも一言だけ告げた俺に、彼は深く追及しようなんてことはなくて、きっと俺の顔から何かを読み取ったのだろうとは思うけど。


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