向日葵-the black cat-
何が大丈夫なのかとか、本気で欠陥品の、しかもガキの俺が家族を作れるなんて保証は、今考えたってどこにもない。


それに比べて子供の父親、つまりはサチの浮気相手は俺より8つも上で、何かサラリーマンだとか言っててさ、悔しい気持もあったんだと思う。


もちろんサチが最後まで首を縦に振ることはなかったけど、でも、由美姉が居なくなったみたいに、彼女まで居なくなるのも耐えられなかったんだ。



『ヨシくん。
サチに子供が出来た。』


『……え?』


『俺の子だ。』


感情剥き出しってゆーか、あれほどまでに怒ったヨシくんって、今まで見たことなかったっけ。


まるで自分の彼女を取られたような感じで、ありえないほど殴られた。


別にそれで気が済んで、許してもらえるなら良いと思ってたし、ちょっとだけ、このまま殺してくれたらな、なんてことも思ったんだけど。



『獣みたいなお前の子なんか、ゾッとするね。』


散々俺を殴り終えて、そして吐き捨てられた台詞がこれ。


大丈夫だよ、俺の血なんか入ってないから、って言っちゃいそうになったけど、でも、言うことは出来なかった。


サチが居なくなったのはその翌日で、やっぱりそこからの記憶もないんだけど。


ただ、誰も居なくなって死にそうな程に寂しかったのは覚えてる。








「起きた?」


吸い寄せられるように意識を手繰り寄せ、重いまぶたを開けてみれば、真っ白い色した電球がやけに眩しくて、思わず眉を寄せてしまうのだけれど。


軋んだ体を起こしてみれば、ソファーにうずくまった状態の俺に、毛布が掛けられていた。



「お前、いっつも記憶がなくなると助けてとか殺してとか散々わめいて、そのまま気失うように眠るよね。」


フッと口元だけを緩めたヨシくんは缶ビール片手で、先ほどのコーヒーはいつの間にやらテーブルの上から姿を消していた。


どこまでが夢で、どこからが現実なのかとか、その境目さえも曖昧で、“記憶、ある?”と、そう彼は俺に問うてくる。


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