向日葵-the black cat-
「じゃあ、真面目に店のこと考えろ。」


「…あー…」


いや、忘れてたわけじゃないんだけど。


遠く未来ばかり考えてて、そんな俺を一蹴するように目の前にある現実を突き付けられてしまい、濁すように言葉を探している自分が居た。



「どうかしてるよ、ヨシくん。
ちっちゃな店に固執するなんてらしくないし、儲けなんて見込めないんだよ?」


それでも断る理由を探してたわけじゃないけど、でも、それが一番俺の中で引っ掛かることではあったんだ。


キャバクラや風俗なんかは数千万単位の金が動くことだってあるってのに、ショットバーなんてどんなに大きく見積もったって、そんなことなんてありえないのだから。


だからこそ、そんな店を開こうとするヨシくんに、違和感を覚えてしまうのだ。



「ちゃんと話さなきゃ、ダメなんだろうね。」


そう、自らに言うように漏らした彼は、静かに俺の向かいへと腰を降ろした。


まるで言葉を探すように煙草を取り出し、落ち着けるようにと煙を吐き出しているようで、俺は無意識のうちに眉を寄せてしまうんだけど。



「夢、だったんだ。」


「…夢?」


「俺の、ね。」


夢、なんて台詞は、本当にヨシくんらしくないと思った。


金だけを信じて、人との繋がりをどこか遮断しているような彼だからこそ、俺は思わず首を傾げてしまう。



「いつかさ、俺も由美も年老いて、金儲けとか考えるのが嫌になった時、アイツと一緒にちっちゃくても良いからさ、楽しく過ごせるような場所を願ったんだ。」


何だか少し、切なくなった。


絶対にもう、叶うことのない夢で、言葉が見つからない俺の心を投影するように、白灰色が静かに立ち昇る。


< 92 / 113 >

この作品をシェア

pagetop