向日葵-the black cat-
ありえねぇこと言ってんじゃねぇよ、と思ったけど、でも、今以上に口数が少なかった俺は、敢えてそれを口にはしなかった。


代わりに視線だけを逸らすと、俺を見つめる瞳は少しばかり悲しげなものに変わる。



『愛して欲しいなら、まず自分が相手を愛することだよ。』


愛だとか、そういったものなんてあの頃の俺には、疎ましいと感じる以外になかったんだ。


もっと言っちゃえば、愛なんて目に見えないもの、あるはずがないとさえ思っていたから。



『いつかそんな相手、見つかると良いね。』


『邪魔だよ、どいて。』


ちゃんと由美姉の言葉、聞いとけば良かった。


心にそんな余裕なんてなかったと言えば言い訳になるかもしれないけど、でも、そんな感じで俺は、鬱陶しくて無理やりに会話を終わらせたのだ。




ごめんな、由美姉…


でも、ちゃんと見つけたから。


だから天国でさ、少しだけ俺の背中を押して欲しい。


欲を言えば、奇跡を起こして欲しいんだ。


偶然でも良いから、夏希と会いたい。






「龍司!」


今日も日向から逃げるようにソファーではなく部屋の隅に腰を降ろしていると、頭の上から落ちてきたのは俺の名前を呼ぶいつもの声色。


顔を上げるようにして意識を手繰り寄せると、まるであの日の由美姉のようにヨシくんは、俺の顔を覗き込んで来た。



「今日、昼11時、店に来い。」


“遅刻は絶対に許さないよ”と、命令口調が落ちてきて、俺は顔全体で不満をあらわにしてやった。


逆らえないけど、でも、視界の端に映るカレンダーの日付は、一年のうちで一番苦手な日が示されている。


今日は俺の誕生日、か。


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