向日葵－the black cat－

駐車場へと車を止めて、そして腕時計で時間を確認してみれば、１１時より２分前。


だけどもすでにヨシくんの高級外車は先に来ていることを告げるように止められていて、また怒られるのかな、なんて思いながら俺は、それから降りた。


すぐにほぼ真上に昇った太陽が俺目掛けて光線を放ってる感じで、走る気力はその瞬間に奪われてしまう。


怒られるよりも汗をかくのが嫌、なんてことは、あの人の前じゃ口が裂けても言えないけれど。


やれやれと歩きながら、ビルの地下へと続く階段を降り、ゆっくりと、俺はその扉を引いた。


引いてみれば、キィッと、少し錆びたようなドアの蝶つがいが音を鳴らし、視線を上げた瞬間、ただ俺は目を見開くことしか出来なかったんだ。


だって、見間違いなんじゃないかと思ったから。


目の前にはヨシくんと、そして何でか知らないけど夏希が居て、俺は状況すらも理解出来ないまま、ただ戸惑うように瞳を揺らした。



「遅いんだよ、龍司。」


言葉とは裏腹に、口元の上げられた顔。


その瞬間、これはヨシくんが用意したサプライズなんだと頭では理解したのだが、それにしても思考がついていけるはずもない。


だって、心の準備ってヤツがあんじゃん。



「驚いた？」


そう言った彼はどこか可笑しそうに笑うだけで、何かもう、目の前に居るのは夏希のソックリさんとかなんじゃないかとさえ思えてくる。


だって、世の中そんな上手い話ってねぇだろ。


つか、何かもう、夏希のこと頭の中で美化しすぎてて、わけわかんねぇよ、って。



「バイト、夏希チャン雇うことに決めたから。」


「…いや、ちょっ…」


「だから龍司も、さっさとオープンの準備しようよ。」


初めて夏希から漏らされたのはやはり戸惑うような声色だけで、これがヨシくんの独断によるものだってことは明白だ。


つか、もう何から言って良いのかすらわかんない。



「…ヨシくん、ちょっと待とうよ…」