【完】ペテン師との甘い夜
「だってオレ、ペテン師だから。」



彼は青白い指を私の唇に押し付けた。



「その薔薇は君にプレゼント。じゃ、バイバイ伊織。」



彼はそっと立ち上がり、歩き出そうとする。



「待って!!」



私は彼を止める。



「貴方、名前は…?」



私が尋ねると、彼はまた妖艶に微笑んだ。



「セキ。」



彼は一言そう言うと、その長い足を動かし立ち去った。



…セキ。



私は受け取った薔薇を、彼の後ろ姿にそっと重ねた。
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