【完】ペテン師との甘い夜
私達は研究室から出て車に乗り込む。



「私ね、あの研究室の制御システムを担当してんの。」



「ふーん。だから、知り合いだったんだ。」



「まぁねぇ。」



朱美ちゃんはハンドルを切りながらクスクス笑う。



「これでどっちが本物か分かるのね…。」



私はぐっと拳を太股の上で握った。



握った掌の中は汗ばんでいて、たまに緩めると生暖かい車内の空気が取り込まれる。



「えぇ…どっちが本物か、は分かるわね。」




車は赤信号で停車する。



細めた朱美ちゃんの灰色の瞳は信号の赤で染まっていた。
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