ある雨上がりの日に。
30分ほど電車に揺られた後、奈緒子の勤める会社が見えた。



駆け足でエレベーターに乗り込み、6階のボタンを押した。

各階へあがるごとに点滅する番号が5階のところで止まった。



「中川さんじゃないですか。」

乗り込んできたのは山田だった。




「奇遇ですね。今日はお急ぎのように見えますが?」

山田は奈緒子の心情を読みとらないまま穏やかに述べた。

しかし奈緒子がとまどいを見せたのを見て、

「あ、すいません。」

と、笑った。





その微笑が、奈緒子の中のある人物と重なった。

今はそんなことを考えている場合じゃない、そう自分に言い聞かせ、山田に愛想笑いをしてエレベーターを降りた。
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