ユキの奇跡
それは、前触れもなく
独りの屋上。
「結局、また同じパン、買っちゃった」
「ま、好きなんだから、いいんじゃないの?」
「でも、これ食べてると、笑われるんだもん」
「ここは教室じゃないでしょ!大丈夫!」
ユキはそう言って笑う。ここは、誰も居ない、冬の屋上。
以前、教室で独り毎日同じパンを食べる私を、遠くから見ていた女子が笑っていた。以来、私は人のいない場所を探してパンを食べてる。
ギィィィィ…
そんな時、屋上のドアが開いた。思わずちょっと身構える。そこには、見覚えのある顔。
「高木さん!やっぱここにいたんだ」
「結城君」
「一緒にお昼、食べようよ。それにしても、ここ、寒くない?」
「え、あ、教室、ちょっと暑いから…」
「確かに暖房効きすぎな教室あるよね」
結城君は私の隣に座るとお弁当を広げた。
どうしよう。
何か話、しなきゃ。喋らないと、きっとつまんない奴だって思われちゃう。
早く、しゃべらないと…。人と話す時の間が、私には恐怖になる。
ねぇ、ユキ、何、話せばいいの?ねぇ、ユキ!
どんなに叫んでもユキの声は聞こえない。
ユキ、どこ行っちゃったんだろう?