ユキの奇跡
それは突然に
「ちょっと早く着き過ぎたかなぁ」
駅前の、でっかい時計台の前、さっきから当たりをキョロキョロ見回して結城君を探す。
待ち合わせまであと三十分もあるから、まだだって思っても、つい見ちゃう。
「ハナ、待ち遠しいの~?」
茶化すようにユキが言う。反論したいけど、ユキにはお見通しのような気がして笑うしかなかった。
「ねぇ、ハナ、私ね、ハナに言わなきゃならないことがある」
「どうしたの?」
急に深刻な顔をしたユキの声に、私は心がざわめきたった。
なんだか、先を聞きたくない…
「あたしね、消えちゃうの」
「…」
私は声が出ない。聞きたくない、聞きたくないの。
「ハナ、もう、大丈夫だよね?」
「どうして?やっと私、お友達出来て…学校も楽しくなってきたのに」
「だからだよ。気がついてるでしょ?幸せなハナの傍にはいられない」
「でも、でも!また、嫌なことあったら、あたしはどうすればいいの?ねぇ、消えるなんて言わないでよ」
「もう、泣かないの。笑って。そうすればあたしはいつでもハナと一緒よ。」
「でも、でも!」
「あたしは…、ハナ自身なんだよ?」
「そんなこと…そんなこと気がついてた!ホントはユキが…もう一人の私なんだってこと…」
私が私に勇気を与えるために生み出した、幻。
だからいつかは消えてしまうんだってわかってはいた。
だけど…まだ一人でやる自信、ないよ…
「もう、ハナならやれる!ハナなら大丈夫だから」
「でも!ユキがいないと私っ」
「もう大丈夫。その証拠に、あたしが消えるんだよ」
「やだ、やだ!ユキ!やだっ…!」
嬉しそうに、ユキが笑う。私の中の私が消えようとしている。
私が持った、勇気と引き換えに。
私に笑顔と、少しの自信を与えて。