我妻教育
桧周だ。

側溝の蓋を外し、中をのぞきこんでいる。


「何故ここに…」


驚く私に、桧周は首で合図した。

合図した先には、未礼がいた。


「啓志郎くん?!」


未礼の顔も相当驚いている。
慌てて私のもとへ駆けよった。



こんなところを見られるとは…

気恥ずかしく、私は目をそらし、開けられた側溝をのぞいた。



…ネックレスではなかった。

思わずため息がもれた。



「もしかして、啓志郎くん、あたしのネックレス探してくれてるの?!」



すっかり身は汚れ、それでも成果のなさに、いささか面目がなく、私は返事ができずにうつむいた。


代わりに桧周が口を挟んだ。

「どー見ても探してるようにしか見えねぇよな」


「啓志郎くん…」

未礼は、申し訳なさげな声を出した。



「こいつ、朝からあからさまに元気ねぇからよ、うぜぇのなんのって。菓子も食わねぇし。
迷惑とか、今さら何言ってんだか。
ブルー入ってるの見てるほうが気つかうっての。
俺らに気つかってねぇで、探しに行きたいなら、言えばいんだよなぁ?」


呆れがちに桧周は、私に同意を求めた。

もちろん、即座に私も首を縦にふった。

「その通りだ。大切なものならば、あきらめるな」


未礼の大きな瞳が潤んだ。
そして、唇をキュッと閉じたまま、頷いた。



「ほら!弱気な顔してんな!探すぞ!」

桧周は、未礼の肩を軽く叩き、カツを入れる。



ひとしきり恐縮していた未礼も、次第にいつもの笑みを浮かべた。
安堵の色も見える。



遠くに九地梨と釈屋久の姿も見えた。

おそらくは、誰に頼まれる訳でもなく、遠慮する未礼を引っぱり出し、皆が一様に探しに出てきたのだろう。

改めて感じた。良い友人たちだ。



別の場所を捜索している琴湖とジャンを呼び、
公園の立て看板の地図の前で、未礼に通った道を思い出してもらいながら、探す場所を決める。


だだっ広い公園で、探す範囲を絞れるのはやはり有難い。




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